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松山地方裁判所 昭和38年(行)21号 判決 1964年6月24日

原告 株式会社一番町ホームラン

被告 松山税務署長

訴訟代理人 村重慶一 外五名

主文

本件訴を却下する。

訴訟費月は原告の負担とする。

事  実 <省略>

理由

被告(松山税務署長)が昭和三八年六月二七日原告に対して通知書を送達して本件更正の処分をしたこと、及び右通知書には「この処分は、高松国税局調査査察部調査課の職員の調査に基づいて行つた」旨の記載があることは、当事者間に争いがない。従つて、本件更正に不服がある者は、国税通則法第七九条第一項の規定により、一月以内に国税庁長官又は高松国税局長に対し審査請求をすることができる。

しかるに、原告が右送達を受けた日の翌日から起算して一月以内に右各庁に対して審査請求をしていないことは、原告の争わないところである。

もつとも、原告は、右期間内に高松国税局及び被告に対してそれぞれ口頭で本件更正に対する不服申立をしたとして、これをもつて適法な審査請求にあたると主張するようであるが、国税通則法には口頭による不服申立を認めた規定がないから、行政不服審査法第九条の規定により、本件更正に対する不服申立は書面をもつてすべきものであり、従つて、口頭による不服申立をしたことに基づく原告の主張は理由がない。

次に、原告は、本件更正通知吉の不服申立教示が適正を欠き教示なきに等しいから、裁決を経ないことに正当の事由があると主張するので、右教示の点について考える。

右通知書に不服申立教示の文言が印刷されていること自体は、原告の認めるところであるが、その内容・体裁は、右通知書である甲第一号証によると、次のとおり認められる。すなわち、通知書の表面の末尾に「この通知に係る処分は、高松国税局調査査察部調査課の職員の調査に基づいて行いました。」、その裏面のほぼ中央に「1内容に御不審の点がありましたら遠慮なくお問い合わせ下さい。2この処分の内容について不服があるときは、この通知を受けた日の翌日から起算して一月以内に納税地の所轄税務署長に異議の申立てを、また、この処分が国税庁または国税局の職員の調査に基づいて行つた旨の記載のある場合で、この処分の内容について不服があるときは、この通知を受けた日の翌日から起算して一月以内に国税庁長官または納税地の所轄税務署長の管轄区域を所轄する国税局長に審査請求をすることができます。異議申立書および審査請求書は税務署に備え付けのものを御利用下さい。3<省略>」の各文言が八ポイントの活字(但し、表面の課名はそれより大きい活字)で印刷されており、かつ、それぞれ黒枠でかこまれているので、他の記載と別項目をなしていることが一見して判明する。

ところで、行政不服審査法(昭和三七年一〇月一日施行)によつていわゆる教示制度が採用され、行政庁は、不服申立をなすことができる処分を書面でする場合には、相手方に対し、その処分につき不服申立をすることができる旨、並びに不服申立をなすべき行政庁及びその期間を教示しなければならない(同法第五七条、第一項)とされるが、本件について見ると、経済活動を営む通常人が、前掲各文言を通読した場合、本件更正に対して不服申立(審査請求)が可能であること並びに審査請求は国税庁長官又は高松国税局長に対してすべきこと及びその期間が一月であることは、さほどの因難なしに理解できることは明らかであるから、右規定の要求する事項はすべて教示されていることになり、その方法も適正でないとはいえない。

原告は、右文言が通知書の裏面に記載されていること、朱書でないこと、本文と同号活字であること等を指摘して、適正な教示でないゆえんを強調するが、教示制度が国民に権利救済の手段を十分活用してもらう趣旨である以上、その実施方法についてさらに改善・工夫が望ましいことはいうまでもないとしても、原告の指摘するような点があるからといつて、教示の目的を達しがたいというごときは、いかにもこじつけがましい議論であつて、到底賛同することができない。また、証人田内定雄及び同橘一衛は、ともに、本件更正通知書を受領した際、裏面の教示部分は見ていない旨供述するが、仮にそれが真実であるとすれば、本件更正に対する対策をまかされた右証人らとしては、甚だしい不注意であつて、そのような不注意の者を標準として、教示の適否を判定することはもとより失当である。

結局、本件更正に際しては適法に不服申立の教示がされているから、教示の違法であることを前提とする原告の主張は理由がないし、他に、本件について、裁決を経ないで訴を提起することができる事由は、認められない。

よつて、本件訴は不適法であるから却下し、訴訟費用につき民事訴訟法第八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 橋本攻 吉川清 山口茂一)

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